「ただの虫」を無視しない農業
昨日「ただの虫を無視しない農業」という本を読みました。
まるでおじさんのダジャレみたいな表題ではありますが、内容はいたって真面目なものです。
ここで言われている「ただの虫」とは、直接的に生産に関係しないような虫や、天敵や害虫の餌となる虫などのことを指していて、この本では、そういった「ただの虫」の管理も含めた高次の総合的生物多様性管理(IBM)の方策を確立することの重要性が提案されています。
また、特定の虫が絶滅も大発生もしないような農業生態系の管理を、後世に残すべき持続的農業のあり方であるとし、保護、防除、管理の道をたどってきた害虫対策の歴史を振り返り、今後は「共存」をキーワードに農業のあり方を探っていくことの必要性が主張されています。
だからといって「有機農業であるべきだ」ということが強く訴えられている訳ではなく、むしろ対照的に、肥沃な土壌の維持、環境汚染の回避、動物福祉の重視、環境問題全体の目配りなどは、争う余地もなく大切なことであるとしつつも、これらの目的達成のための農法として有機農業だけを位置付けることには疑問を呈していて、将来の食の供給や環境への負荷の少ない循環は、手法ありきで考えるものではないというようなことが書かれています。
「共存の時代」というのも「有機農業だけが循環の最適解ではない」というのも、個人的はとても共感する部分が多いので、スッと入ってくることが多く読みやすかったです。
昆虫生態学の視点をベースに、害虫防除や有機農業の歴史の全体像が分かりやすく紹介されているのも好印象です。
ハスモンヨトウやタバコガ、アザミウマのような、現代でも問題になりやすい虫が大害虫化したのは割と最近で、それは、施設栽培の普及と共に分布圏が広がっていったというようなことが書かれていましたが、こういう話は考えさせられることがとても多いです。
人間が速度を早めた環境変化がこれからどこに向かっていくのか僕には全く分かりませんが、「生物間の相互関係を重視し、技術的に生態系を制御できるような生物学的な知見に基づく農業体系の確立って、一体、どこの何を目指すのがよいのだろうか??」というような、根本的な問いが頭の中をぐるぐる回っています。
答えのない問題は、考える力を養ってくれますし、自分なりの答えを考えるきっかけを作ってくれますので、積極的に向き合いたいなと思いますし、そういう時間に対し、いつもいいなと感じています。