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現実的な生産方式としてワークしていない不耕起栽培ではあるけれど、一方で明るい材料も多い。



近年、土壌撹乱を最小限に抑えることに努める「不耕起栽培」や「保全耕耘」のような農業技術が、地球温暖化防止力を高めるということで世界的にも注目されていたりしますが、これが、日本でイメージされているような「環境に優しい農業」(「無農薬」「自然農」)のような考えを前提としたようなものと同じかといえばそういう訳でもありません。



全米では全農地の約4割近くが不耕起栽培で管理されていると言われていますが、それは、トラクターの燃料費や作業コストの軽減、土壌の劣化防止など、農業をする上でも現実的かつ効率的な手段として存在していて、生産活動としてもメジャーな手法として機能しています。



また、アメリカには同じ不耕起でも、化学肥料や農薬を使わない不耕起有機農業と、化学肥料、遺伝子組み換え、除草剤がセットの不耕起慣行農業の2種類があると言われていますが、「土を育てるー自然をよみがえらせる土壌革命」の著者ゲイブ・ブラウンは、アメリカで不耕起有機農業が行われている比率は高くないと言っていました。



ですので、現状アメリカでは、産業としての不耕起栽培を現実的なものとするためには、化学肥料、遺伝子組み替え、除草剤をセットで考えることが前提条件になっているのだろうと思います。



一方、日本では、僕のように「機械をほぼ使用せずに主に手道具で」みたいな栽培方法や、「無農薬、天然資材で」というようなことを大前提として不耕起栽培がイメージされていることが多いと思います。


また、そのようなものが、本格的に農業に取り入れられているようなケースはまだほとんどありませんし、そのあまりの非効率性から、現実的な生産活動としては認知されておらず、自給的な農生活や、体験やレジャー的なものの枠を出ることができず、極細々と存在している概念に過ぎません。



北海道では、アメリカの例に倣った生産的な取り組み例が増えてきている印象がありますが、日本の全体的な土地の少なさ(狭さ)や高温多湿という不利な環境条件もあり、メジャーな生産活動としてはほぼ機能していないと思われます。


個人的には、「少ないながらも、今後シェアが大幅に拡大される作物もあるだろう」という希望的観測を持ってはいますが…



というように、日本では現実的な生産手法としてはほぼワークしていない不耕起栽培ではありますが、日本なりの文脈で環境保全型の土壌管理を前提にした農業技術の研究は盛んに行われていて、先月の現代農業にも、耕耘方法と緑肥の組み合わせ別の土壌炭素量の変化を追った研究結果が掲載されていました。(添付図、茨城大学農学部 現代農業2022.10)



図の通り、プラウ耕と不耕起区での違いは明らかで、「いかに土を撹乱せずに、有機物を畑に供給し続けられるか」が、土壌に炭素をストックする上で重要かということがよく分かります。



「生物性が上がると、土の化学性や物理性も改善に向かいやすく、地力が向上していく傾向にある」というようなことを、農学博士の木嶋利男先生もおっしゃっていた記憶がありますし、土壌炭素量の増加が畑の生物量を増やすことに関係しているのは自らの経験的にもよく理解していますので、それらを前述の研究結果と合わせて考えると、農業をする上でも環境保全的にも有効に働く要素も多いであろう「土壌浸食を極力減らしていけるような栽培方法」を追求していくことに悪いことはあまりないように思いますし、ここ日本でも、土壌保全型の農業が、もう少し現実的な生産手段としての一つの選択肢となるような未来が描けると良いなと思います。



僕は現在、結果的にたまたま不耕起栽培に限りなく近い農業の方法をとっていますが、僕の浅い農業経験の中でも、明らかなる地力の向上を感じていますし、生産活動としても、まだまだポジティブな可能性も沢山見えています。


ですので、前述の「現実的な生産手段としての一つの選択肢に」という部分に対しても僕は明るい希望を持っています。



ただ、僕は複数の狭い土地を使いながら細々とやっているので、一つ一つの作業自体に恐ろしく時間がかかりますし、どんな土地でも相性が良いかといえばそういう訳でもなく、安定までやたらと時間がかかる土地もあったりして、上手くいかないこともまだまだかなり多かったりします。

その影響から、未だ量を全然作ることができていないので、まだまだ農業者としての課題は山積みですし、飢えを凌ぐための農業という文脈に当てはめるのであれば、今現在、僕のやっていることなどは環境や人に優しいわけでもなんでもないと思いますし、豊かな時代だからこそできている、極めて道楽的な農業なのだろうとも思っています。



ですので、境遇と時代には感謝しかありません。


長くなってしまったのでまとめますね。



前述したアメリカ型の不耕起栽培のようなものを日本全体で目指すことは非現実的だと思いますし、目指すべきでないと考えますので、農業全体が急激に不耕起に舵を切るようなことはあってほしくありませんが、日本なりの解釈で、生物性を活かした土壌管理を前提とした農業を考え続け、農業としての実践例を増加させていくことで、今はまだ見えない前向きな新しい解や問いが生まれていくのだろうと思います。


また、先にも述べましたように、やり方、規模によっては農業として自立することも可能な技術でもあると思いますし、利点も多いことは明らかなものだろうと思います。



僕には、その明らかなる利点をどう活かしながら進んでいけるかを考えながら、自分の小さな農園を運営することくらいしかできませんが、20世紀は物理と化学の時代に対し、21世紀は生物の時代とも言われたりするように、これから先、生物を主役に考えられた農業技術はますます発展していくのではないかと考えています。



そんな中で、僕の小さな小さな実践期が、現実的な生産手段としての土壌保全栽培のシェア拡大に貢献できる一つの材料になれたとしたら、それはとても幸せなことです。




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■人の力と少しの道具で成り立つ、シンプル&ミニマムな農業をモットーに、農園を営んでおります。

当Blogの主な内容は、「久保寺農園の少量多品目野菜栽培記」や「生業としての不耕起、浅耕起型農業の実践記 & その栽培方法と考え方」になります。
​同じような栽培方法に取り組まれている方々にとって、当園Blogが何かの参考になれたとしたら、それはとても嬉しいことです。
 

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